床上げ工事は、飲食店・美容室・医療・物販など幅広い内装工事で必要になる作業です。
一見「床を何cm上げるか決めるだけ」のように見えますが、実際は 排水勾配・トラップ・配管径・エルボ高さ・仕上げ厚み など、複数の要素を組み合わせて決める必要があります。
この記事では、床上げ寸法を “勘”ではなく“逆算”で決めるための実務的な考え方 を、分かりやすく解説します。
1. 床上げが必要になる代表的な理由
床上げ工事が必要になるケースは多数ありますが、実務で特に重要なのは次の3つです。
① 排水勾配を確保するため
床上げが必要になる最も一般的な理由です。
排水管には必ず 一定の勾配 が必要で、これが取れないと水が流れません。
- VP50(50A) → 1mで2cm
- VP75(75A) → 1mで1cm
排水距離が長いほど必要な落差が増え、床上げが必要になります。
② 床排水(ドレン)を作る場合
厨房や清掃性が求められるスペースでは、床に排水口(ドレン)を設けることがあります。
この場合、
“床上トラップ” と呼ばれる専用の排水トラップ(高さ8〜13cm)が必要になります。
床上トラップは床の上に設置するため、
そのトラップより 低い位置に排水管(横引き)を通すスペースを床下に作る必要がある
= 結果として床上げが必要になります。
※ シンク下のPトラップ・Sトラップとは全く別物です(後述)。
③ 配管・配線ルートを床下に通す場合
- 給湯・給水ヘッダー
- ガス管
- 電気配線
- 床下防水の立ち上がり
- 排水以外の設備ルート
これらのスペース確保のために床上げが必要な場合もあります。
2. 床上げ高さを決めるための“最重要5要素”
床上げ寸法は、次の5つの要素を組み合わせて決めます。
① 排水勾配
排水距離に対して必要落差を計算します。
例:距離10m・VP50の場合
→ 10m × 2cm = 20cmの落差
② トラップの種類(器具トラップと床上トラップ)
● 器具トラップ(シンク下のPトラップ・Sトラップ)
- シンクや洗面の器具に付属
- 封水用の小型トラップ
- 高さは器具内部で完結
- 床上げ寸法とは関係しない
● 床上トラップ(床排水用)
- 床排水口に使用するトラップ
- 本体高さは約8〜13cm
- トラップより低い位置に横引きを通す必要がある
- 床上げ寸法に直接影響する
③ 配管径(50A / 75A / 100A)
配管が太くなるほど使用するエルボも大きくなり、
縦方向の“エルボ高さ”が増えます。
④ エルボ高さ(実寸)
排水溝に接続する際のエルボは、
配管径によって以下の高さが必要になります。
- 50A:7〜9cm
- 75A:10〜13cm
- 100A:13〜16cm
このエルボ高さが、床上げ寸法を決める要因の1つです。
⑤ 仕上げ・下地の厚み
- 長尺シート:2〜3mm
- フローリング:10〜12mm
- LGS床:10〜30mm
- 木下地:40〜60mm
最終仕上げまで含めた高さで床上げを判断します。
3. 床上げ寸法を“逆算”する最短の式
**床上げ高さ =
排水勾配の落差
+(必要な場合)床上トラップ高さ
+ エルボ高さ
+ 下地厚み
+ 仕上げ厚み**
計算例(参考)
排水距離10m・VP50・床上トラップありの場合:
- 勾配落差:20cm
- 床上トラップ:8cm
- エルボ:7cm
- 下地:3cm
- 仕上げ:1cm
→ 合計約39cmの床上げが必要
実務で 20〜35cm程度の床上げが多い のはこのためです。
4. よくある失敗と注意点
① 勾配不足で流れない(逆勾配)
完成後の修正は難しい。
② エルボが床下に納まらない
勾配計算が合っていても“エルボ干渉”で詰むケースが多い。
③ 器具トラップと床上トラップの混同
床上げに関係するのは“床上トラップ”だけ。シンクについている“Sトラップ”や“Pトラップ”などは別物。
5. まとめ
床上げ工事は、
排水勾配・トラップ位置・配管径(=エルボ高さ)・下地・仕上げ
の組み合わせで決まる、非常に“理屈のある工事”です。
特に重要なのは以下の点です:
- 排水勾配は必ず必要
- 床上トラップは床上げに直結
- 配管径が太くなるほどエルボ高さが増える
これらを理解し、
床上げ高さを逆算で決めることが、工事トラブルを避ける最も確実な方法 です。
【注意書き/日本語】
本記事は一般的な建築知識をまとめたものであり、
実際の現場は築年数・構造・排水位置・管理規約などにより条件が異なります。
排水工事や床上げ工事は、必ず設備業者・建築士など専門家に確認してください。


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